家の境界線トラブルが訴訟に発展?要因・解決方法や防止策を徹底解説

一般的にトラブルの要因となりやすい境界線は「隣地境界線」です。

隣地境界線は土地と土地の境界を示す線のことで、言葉を変えると「土地の所有者の権利がおよぶ範囲を示した線」ともいえます。

土地を所有する以上、隣地境界線が原因となるトラブルに巻き込まれる可能性はゼロではないため、問題が起こったときに慌てず対処できるよう予習しておきましょう

隣地境界線とは?

によっては些細な問題に思える状態もトラブルにつながります。そのため、隣地境界線は土地の所有者となる以上、必ず知っておくべき用語だといえるでしょう。

家の境界線でよくあるトラブルの要因

境界線トラブルにはさまざまなケースがありますが、大きく以下の3つに分類できます。

  • 境界の認識の相違
  • 構造物の越境
  • 境界標の移動・亡失

まず建て替えや土地売買の際には、お互いの境界の認識が食い違い「ここまではうちの土地だ」と主張し合うトラブルが起こりがちです。

ほかには傾いたブロック塀や屋根の一部が隣地にはみ出たり、庭木が成長して枝が隣地に伸びてしまったり、構造物の越境も隣人に指摘されやすいケースです。

また境界線を判別するための境界標が、工事や災害により移動・亡失してしまった場合に、境界が曖昧になり問題に発展することも。

つぎの章では、これらのトラブルが起こってしまった際、どのような解決方法があるのか具体例を挙げていきます。

家の境界線トラブルの解決方法

当事者同士が建設的にお互いの認識をすり合わせられる場合、後述する制度の利用や訴訟にまで発展することなく、比較的スムーズに解決するケースもあります。

しかし、非専門家同士が話し合うことで感情的な口論になり、穏便に解決できなくなる事例もあるため、どのような選択肢があるか把握したうえで最適な対応を選んでいくことが推奨されます。

越境物をすぐに撤去する

前述したように「庭木が境界線をはみ出ている」といった、人によっては些細に思える状態もトラブルの種となります。

これらのトラブルの種は指摘されるまえに処理しておけると理想ですが、自分では気付かないまま相手から指摘されてしまった場合は、大きなトラブルに発展しないようすぐ撤去することを検討しましょう。

一方、逆に隣地からこちら側の土地へ枝がはみ出している場合には、勝手に切除するのではなく必ず所有者に除去を要求してください。民法第233条にある以下の条文にもとづいて、切除してもらうことが可能です。

“土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。”

引用:e-Gov「民法」第二百三十三条

なお、相手に切除を要求することなく、自分の敷地に入ってきた枝を勝手に切除すると不法行為に問われる可能性があります。

  • 木の所有者に切除を催告しても応じないとき
  • 木の所有者が不明であるとき
  • 木の所有者の所在が不明であるとき
  • 急迫の事情(緊急の危険)があるとき
  • 枝ではなく根が敷地内に伸びて出てきたとき

上記のケースのみ越境物を切除できるため、それ以外の場合には慎重に対応してください。

土地家屋調査士に再測定を依頼する

長い年月のなかで境界線が曖昧になってしまったり、境界の目印となる境界標がよけられていたりする場合、土地家屋調査士に境界線の測定を依頼するのも解決策の1つです。

土地家屋調査士は、土地・家屋に関する調査や測量の専門家。依頼費用はかかりますが、隣地所有者との境界確認時は土地家屋調査士が取り持ってくれるため、比較的スムーズな問題解決が期待できます。

資料集めから境界特定まで、非専門家では対応が難しい業務を一任できるため、境界線トラブルに発展した際には依頼を検討してください。

ただし、依頼費用をどちらが負担するのか決めておかなければ、また別のトラブルにつながる可能性も。双方で折半するのか、どちらか一方が依頼費用の大部分、または全部を負担するのかあらかじめ取り決めておきましょう。

法務局の筆界特定制度を利用する

筆界特定制度は、以下のように定義される「筆界」を専門家が調査し、筆界特定登記官が明らかにする制度です。

“「筆界」とは,土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線であり,所有者同士の合意などによって変更することはできません。”
引用:法務省「筆界特定制度

筆界は公法上の境界とも呼ばれているため、調査により公的に特定された筆界はトラブルの原因である「境界線の認識のズレ」を突き止める際に役立ちます。

また後述する境界確定訴訟よりも費用が安いほか、かかる期間はおおむね半年~9か月ほどと短く、専門家の意見にもとづいて境界線を特定できる点で優れています。

裁判所へ境界確定訴訟を提起する

境界確定訴訟は、名前の「訴訟」から連想される通り裁判を行い、裁判所の判断によって境界を確定させる手続きです。筆界特定制度より以前から存在しており、いくつかの問題を抱えている方法でもあります。

まず境界確定訴訟は判決までに数年の期間がかかり、その間に発生する土地の鑑定費用や弁護士費用など金銭的な負担も少なくありません。また境界の判断を下す裁判官は境界の専門家ではないため、判断の妥当性に疑問を抱いてしまう場合も。

何より「訴訟」であるため隣人との心の溝は深まり、従来よりも不仲・疎遠になる懸念があります。そのため、初期の選択肢として訴訟を検討するのは慎重になった方が良いでしょう。

ただし、筆界特定制度による特定に不服がある場合、続けて境界確定訴訟で争うこともできます。境界確定訴訟による決定は法的な効力が強いため、あらかじめ専門家の意見を仰ぎつつ、適切な対応をとるように心がけてください。

ADR機関(境界問題相談センター)を利用する

裁判ではない紛争解決手段をADR(裁判外紛争解決手続)といいます。

土地家屋調査士と弁護士による相談や調停を通じて、当事者同士の話し合いによる解決を行い、最終的に和解契約書による契約で当事者を拘束することがゴールです。

境界を決めることを目標とするのではなく、和解とそれにともなう契約を目標とする点で、筆界特定制度や境界確定訴訟とは役割が異なります。

とくに、訴訟と比べたときADRはより穏便に解決できる可能性がある一方、双方の歩み寄りがなければ調停が合意にいたらず、相手は話し合いを拒否することもできるため、かけた費用に対する効果を得られない懸念もあります。

「まずは第三者の調停による和解を望む」という場合には、各地域にある境界問題相談センターへの相談をご検討ください。

家の境界線トラブルを未然に防ぐために

現時点でトラブルは起こっていないものの、今後起こりうる境界線の問題を防ぎたいと考えるとき、検討すべき対策が3つあります。

  • 筆界確認書を作成しておく
  • 簡単に朽ちない境界標を設ける
  • 近隣住民と好意的な交流を意識する

それぞれの対策を順番に解説していきます。

筆界確認書を作成しておく

「まだトラブルは起きていないが境界線の曖昧さは気になっている」といった状況であれば、面倒な揉め事が起こるまえに土地家屋調査士に依頼し、筆界確認書を作成しておくと良いでしょう。

そして専門家の介入のもと、つぎに解説する「朽ちない境界標」を設置することで、将来的に起こりうるトラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。

簡単に朽ちない境界標を設ける

建物の建て替えやブロック塀の積み替え時に、境界標を動かしたり亡失してしまったりした場合、境界の認識が曖昧になりトラブルに発展しやすくなります。

とくに木製の境界標は劣化しやすく、長いあいだ境界標としての役割を果たすことが難しいため、コンクリート杭や金属標、石杭やプラスチック杭など「永続性がある境界標」と呼ばれるような標識を設けることが推奨されます。

近隣住民と好意的な交流を意識する

隣人と不仲だったり隣地の所有者と面識がなかったりする場合、境界線にまつわるトラブルが起きやすく、その解決にも時間がかかりやすいといわれています。

というのも、隣人と仲が良ければ相手も問題を穏便に解決しようとしてくれますし、不仲によって「立ち合いに応じてくれない」といった対応をとられることが少なくなるからです。

「できる限り隣人と接点を持たず気楽に生活したい」といった考えも尊重されるべきですが、現実問題として隣人と不仲・疎遠ななかでの境界線トラブルは解決に難航し、訴訟に発展するケースもあることを念頭に置いてください。

まとめ

家の境界線にまつわる問題は、土地を所有しているすべての人に起こりうるトラブルです。

まずは起こりがちなトラブルの事例を理解し、そのうえで筆界確認書の作成など未然にトラブルを回避するための行動を実施しておきたいところ。

それでも100%トラブルを避けられるわけではないため、事前に解決方法を頭に入れておき、いざ問題が起こったときに焦らないよう予習しておきましょう。