子どもにも高齢者にも優しい「安全と健康を考えた住まい」のつくり方
特定の世代だけに目を向けるのではなく、子どもから高齢者まで幅広い世代が快適に過ごす家を目指すためには、あらゆる観点から以下に配慮する必要があります。
- 安全性の確保
- 健康への影響
- 家具の利便性
今回は「あらゆる世代が快適に過ごせる住まい」に焦点を当てて、どのような観点から快適な空間づくりを進めるべきか解説していきます。一般的な「バリアフリー」の観点と共通する部分も多いですが、復習も兼ねてご一読ください。
安全性の確保における重要ポイント
子どもと高齢者では日常生活の過ごし方が異なりますが、どちらも「健康な成人よりケガのリスクが高い」という点で共通しています。そのため、デザインばかりを重視するのではなく、安全性を第一に考えて空間づくりを進めることが大前提だといえるでしょう。
具体的には、以下の設備が安全性に大きな影響を与えます。
- 床材
- 手すり・レール
- 照明
- 浴室
それぞれ、どのように安全性へ関わっているか解説し、具体的な対処法を紹介していきます。
床材と安全性の関係
床材に関しては滑りにくい材質を選ぶことが基本です。子どもは走り回ることが多いため、滑りやすい床材ではケガのリスクが高まりますし、高齢者にとっては歩行そのものが不安になりかねません。
たとえば、日本では長らくフローリングが一般的な床材の1つですが、スリッパを履く場合はグリップが効かず滑りやすいケースが多々あります。くわえて、フローリングはクッション性に欠けるため、転倒した際に激しい打撲につながることも。
これらの問題を解決するため、防滑性・衝撃吸収性・視認性の観点から、比較的安全だと思われる床材を選ぶべきでしょう。
安全性に優れた選択肢として、取り上げられる機会が多いアイテムの代名詞は「タイルカーペット」です。というのも、タイルカーペットは表面に凹凸があるため防滑性に優れており、かつ起毛部分の厚さがあるため若干ではありますが衝撃を吸収できるのです。
またタイルカーペットは、色や柄が異なる複数種類のカーペットを貼り付けられるため、単一色の床材よりも視認性に優れています。
吸着力が持続して何度も貼り直せる製品や、丸洗いして清潔な状態を保てる高耐久な製品もあるため、床が滑りやすい場合は手軽な改善策として導入を検討してみてください。
手すり・レールと安全性の関係
歩行の補助となる手すりやレールは、滑りにくい床材の導入と同時に検討したい設備です。たとえ床材が滑りにくい素材だったとしても、姿勢が不安定になりやすい場所では転倒のリスクが高まります。
階段・トイレ・浴室周辺など、片足で体を支えたり姿勢を上下させたりする機会が多い場所には、手すりの設置を検討したいところです。
設置時にデザインが調和するかどうかも大切ですが、それ以上に子どもや高齢者にとって「握りやすい形状であるかどうか」を確認するように心がけましょう。なお、手すりではサポートが不十分な場合には、階段昇降機などの設置も有力な選択肢に挙がります。
照明と安全性の関係
床材や手すりが最適な状態であれば日中の転倒リスクは抑えられますが、部屋全体が暗くなる夜間や曇天時は「屋内の視認性が悪くなる」という問題が発生します。
結果として、段差の距離感がわかりにくく階段で足を踏み外したり、平衡感覚を失って硬い廊下で倒れてしまったりすることも。
このように大きな事故にもつながる「視認性の悪さ」に関しては、以下の3点を意識することで改善できます
- 転倒しやすい場所すべてに照明を設ける
- アクセスしやすい場所にスイッチを設ける
- 必要に応じてセンサー式の照明を導入する
くわえて「光量を調節できる照明」であれば、夜間につけても家族に迷惑をかける心配がないため積極的に利用できるはずです。
浴室と安全性の関係
ここまでに紹介した3点に比べ、容易に変更ができる箇所ではありませんが、以下の条件を満たすことで子どもにも高齢者にも快適な浴室を実現できます。
- ゆとりのある広い浴槽にする
- 浴室内の段差を小さくする
とくに1人で入浴できない乳幼児や要介護者を浴槽に入れる際、ある程度の広さがなければ入浴のサポートが難しくなります。また浴室内は水浸しとなり滑りやすいため、浴槽を出入りするときに姿勢を崩して転倒する可能性も。
そのため、可能であれば浴槽はゆとりのある大きめの設計を心がけ、浴室内の移動にともなう段差は極力小さくなるよう配慮することが推奨されます。
健康への影響を改善するポイント
風邪やインフルエンザ、熱中症やヒートショックなど、1年を通して注意しなければならない病気や症状は複数ありますが、これらへ対処するために空間づくりで意識したい点は以下の2つです。
- 温度・湿度管理
- 換気のしやすさ
上記のうち、とくに温度・湿度管理に関しては健康問題に大きく関わるため、温度や湿度を調整する設備は積極的に利用することを推奨します。
温度・湿度管理による健康への影響
空間全体の温度・湿度を適切に管理するだけでも、解消される健康問題は数多くあります。
たとえば、危険な病気として知られるインフルエンザは湿度の高い環境に弱く、20〜25℃の室温、および50〜60%程度の湿度を維持すればウィルスの生存率は下がります。
また人間の気管支や粘膜にあり、ウィルスを体外に排出する役割の「絨毛」は、空気が乾燥すると働きが弱くなります。つまり、湿度を適切に管理できなければウィルスを活発化させるだけでなく、体のバリア機能を低下させてしまうのです。
そしてご存じの通り、昨今では夏場にエアコンを使用しなかったために、重度の熱中症が起こり命を落とす事例がたびたび報道されます。
これらはあくまで一例であり、実際には季節ごとの温度・湿度に応じてさまざまな健康リスクが発生します。
そのため、空調設備を使用して適温を維持しつつ、極端な多湿・乾燥が起こらないようコントロールすることが、子どもから高齢者まであらゆる世代の健康を守ることにつながります。
換気と健康の関係
昨今では、住宅の高気密・高断熱化が進んでいます。これにはメリットもありますが、建材や家具、日用品から発生する化学物質が屋外へ排出されず、部屋の空気が汚れてしまうデメリットがあります。
化学物質が滞留することで起こる「シックハウス症候群」の具体的な症状としては、以下が挙げられます。
- 頭痛がする
- のどが痛む
- 鼻水が出る
- 目がチカチカする
症状は人によって異なり、上記のほかにも吐き気を感じたり湿疹が出たり、さまざまな事例が報告されてきました。
これらの予防・対策として有効かつ、もっとも手軽な方法が「汚染された空気の換気」であるため、家族全員の健康を守るためにも換気のしやすい空間づくりを目指すことが大切です。
ただし、たとえば梅雨の場合には一時的に窓を開けるだけでも、屋内の湿度が上昇する場合があるため、換気後はスムーズに適切な温度・湿度まで戻せるような工夫もあわせて実施しましょう。
家具の利便性を高めるポイント
空間そのものが老若男女に配慮された設計だとしても、そこに設置する家具選びに失敗すれば快適さは損なわれます。子どもにも高齢者にも優しい空間をつくる際、家具選びで意識したい点は以下の通りです。
- 背が低い
- 丸みを帯びている
- 開閉が容易である
- 移動させやすい
いずれも重要なポイントですが、とくに小さな子どもや車椅子を利用する人がアクセスする家具は、背の低い製品が好ましいでしょう。高い位置に手を伸ばすほど姿勢は不安定になるため、足腰に不安がある高齢者にとっても低い家具は使い勝手に優れます。
また鋭利になっている箇所がなく、全体的に丸みを帯びている家具を選ぶことが推奨されます。丸みを帯びた形状の家具を選んでおけば、万が一転倒して人と家具が衝突した場合にも、ケガのリスクを抑えられるからです。
「開閉が容易である」と「移動させやすい」に関しては、ケガのリスクに直接関わるものではありませんが、子どもや高齢者の快適性を考慮すればどちらも外せない要素です。
本来リラックスできる場所であるべき住まいが、ケガや不満の発生源にならないよう、どの世代でも手軽かつ直感的に使用できる家具選びが大切だといえます。
まとめ
子どもと高齢者にとって快適な空間を目指すためには、とくに以下に配慮して設計を進めていくことが重要です。
- 安全性の確保
- 健康への影響
- 家具の利便性
導入する設備やシステム次第では高額な費用を要するものもありますが、必ずしも大金を投じなければ実現できない選択肢ばかりではありません。世代を問わず笑顔が溢れる空間にするためにも、ぜひ本記事で解説した方法を取り入れてみてください。