高齢者が過ごしやすい戸建て住宅のポイント9つを紹介
いま戸建て住宅の新築・購入を検討している方のなかには、年齢を重ねた父母・祖父母と一緒に生活することを念頭に置いている方もいるかと思います。
また、高齢者向けの環境がいますぐ必要にはならないものの、自身や親の数十年後を想像してバリアフリーに配慮しようと考える方もいるでしょう。しかし、実際に介護に携わった経験がない場合「高齢者が過ごしやすい家」といわれてもピンと来ないものです。
そこで今回は、どのような箇所に配慮した戸建てであれば、要介護者や介護者が快適に過ごせるのか重要なポイントをまとめました。家族が高齢化しても快適に住み続けられる家づくりにお役立てください。
高齢者が過ごしやすい戸建て住宅のポイント9つ
本記事では、高齢者が過ごしやすい戸建て住宅のポイントとして9つの具体案を紹介します。それぞれ要介護者や介護者にかかる負担を減らし、高齢者特有の事故を防止する効果も担っているため、デザインや予算と相談しつつ取り入れてみてください。
- 玄関に手すりやスロープを設置する
- 各部屋にできるだけ段差を作らない
- 断熱性能を高めて寒暖差を作らない
- 廊下は車椅子でも通れる広さにする
- 生活が1階で完結する間取りにする
- 要介護者の寝室とトイレを近付ける
- 介護者の視界を遮らない空間を作る
- 浴室は2人以上で入れる広さにする
- 事故防止のためにオール電化を検討する
ここからは上から順番に各ポイントの役割と効果を紹介していきます。
玄関に手すりやスロープを設置する
階段をのぼって屋内へ入るタイプの玄関になる場合、階段をのぼる高齢者の補助となる手すりを設置したり、階段とは別にスロープを設置したりなどの対策があると理想的です。
とくに高齢者が1人で自宅を出入りする機会が多いのであれば、手すりかスロープは必須だといっても良いでしょう。
またデザインと要相談ですが、玄関ドアを開き扉ではなく引き戸にすることで自宅への出入りがスムーズになります。ひと昔前まで「引き戸は和風っぽい印象がある」といった傾向が見られたものの、現在では洋風でデザイン性の高い引き戸も増えました。
昨今では玄関を自動ドアにする選択肢もあるため、こちらを検討しても良いでしょう。いずれも標準的な開き扉に比べて開閉に力がいらず、高齢者に無理な運動を強いることもないためおすすめです。
各部屋にできるだけ段差を作らない
自宅内にできる限り段差を作らず、足を上げ下げしなくても部屋を移動できる設計にするのはバリアフリーの基本です。段差があるほど高齢者の体には負担がかかりますし、転倒が起こりやすいためケガの要因にもなるからです。
高齢者が過ごしやすい戸建て住宅を目指すのであれば、まずは極力段差を作らないことから考えるべきでしょう。
ただし浴室やトイレなど、仕様によってはどうしても多少の段差が生じるケースもあります。その場合には手すりを設置したり、介護者が補助に入ったりするなど別の手立てを検討してみてください。
断熱性能を高めて寒暖差を作らない
部屋ごとに生じる寒暖差により失神や脳梗塞、心筋梗塞などの症状を招くヒートショックをご存知でしょうか?
とくに冬場においては「暖房の効いた部屋から冷えた浴室に移動し、温かい浴槽へ浸かる」といったシチュエーションでヒートショックは起こります。
最悪、浴槽内での溺死につながる恐れがある症状ですから、自宅の断熱性能を高めて寒暖差を作らないことで対策したいところです。以下のグラフは平成20年から令和元年における、浴槽内で死亡した高齢者数を示すデータです。
出典:消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」
上記の通り、交通事故の死亡者数は減少傾向にある一方、家や浴槽で溺死した死亡者数は若干の増加傾向にあります。
ヒートショックを防止し、少しでも死亡事故のリスクを避けるためにも、各部屋の寒暖差が生まれないように断熱性能を高めた仕様にすることを推奨します。
廊下は車椅子でも通れる広さにする
高齢者の過ごしやすさに配慮するのであれば、屋内での車椅子使用も念頭に置いておくべきです。とくに廊下の横幅に十分なゆとりがなければ、屋内を車椅子で移動することは難しくなります。
最低限、車椅子が通行したり旋回したりできる程度の広さを確保し、可能であれば車椅子と人がすれ違っても接触しない広さを確保したいところです。
生活が1階で完結する間取りにする
高齢者の過ごしやすさを向上させるうえで、生活に必要な全設備を戸建ての1階部分に集めることは重要です。たとえ手すりを設置したり介護者が随伴したりするとしても、1階と2階を行き来するのは負担が大きいからです。
また可能な限り生活導線をコンパクトにまとめ、高齢者が最小限の移動で生活に必要なすべての部屋へアクセスできる導線設計を意識しましょう。
そのうえで各部屋の電気スイッチの位置を高齢者の背丈に合わせるなどの配慮ができれば、工夫しなかった場合と比べて過ごしやすさは劇的に改善されるはずです。
要介護者の寝室とトイレを近付ける
一般的に、高齢になるほど排泄の間隔が短くなる傾向にあります。室内が明るい昼間であればトイレへ行く途中に危険は少ないのですが、就寝中に尿意を催してトイレへ向かう場合などは薄暗い室内を移動するため危険です。
この対策として、夜中に点灯する小さな照明などを付ける方法もありますが、可能であれば要介護者の寝室とトイレが近くなる間取りにするのが理想的です。
「生活が1階で完結する間取りにする」の章とも共通する考えですが、間取りは高齢者の居室と各部屋の位置関係を重視して決めることをおすすめします。
介護者の視界を遮らない空間を作る
要介護者の安全を最優先にする場合、基本的には「介護者が要介護者の状態を常時把握できる環境」が理想的です。
ただし常に監視する・監視される状態がストレスになる場合もあるため、そのバランスを相談しつつ、現実的な範囲で介護者の視界を遮らない空間づくりを目指すのが良いでしょう。
また視界を遮らない部屋は、子供の様子が確認しやすい部屋ともいえます。高齢者と子供が一緒に住む世帯であれば、思い切ってとことん視界が開けた設計とするのも1つの選択です。
浴室は2人以上で入れる広さにする
浴室が狭ければ介護者が動きづらくなり、要介護者を十分に補助することが難しくなります。入浴のサポートはとくに負担が大きい作業ですから、負担を少しでも減らすため介護者が自由に動けるだけのスペースは確保したいところです。
また、浴室は一般的に滑りやすく転倒事故が起こりがちな場所です。浴室に十分な広さを確保するとともに、床材は可能な限り滑りにくいものを使用しましょう。
そのほか、浴室の設計時に意識しておきたいポイントは以下が挙げられます。
- 2人が通れるように出入口を広くする
- 浴槽や洗い場に手すりを設置する
- 浴槽はやや浅めに設計する
上記はいずれも重要ですが、意外と見落としがちなのは「浴槽の深さ」です。まず要介護者は自力で高くまで膝を曲げることが難しい場合も多く、浴槽が深すぎると湯舟への出入りでつまずく危険性があります。
また、膝を折り曲げて体を沈める深いタイプの浴槽に入浴すると、水圧による影響で心臓に負担がかかります。深めの浴槽は心臓病や高血圧の高齢者にとっては好ましくないため、避けた方が良いでしょう。
事故防止のためにオール電化を検討する
住宅火災による死者の約7割は、65歳以上の高齢者であることをご存じでしょうか?
実際に火災が起こるシチュエーションは様々ですが、死者の7割が高齢者であり主な出火原因がコンロであることを考慮すると、「高齢者が台所で火の不始末を起こして火災に発展」といった状況は決して少なくないと考えられます。
年齢を重ねて注意力が衰えると火の消し忘れが起こりやすいため、あらかじめ自宅をオール電化にしておけば火災のリスクを避けられるでしょう。
まとめ
今回は快適性や安全性といった観点から、要介護者や介護者が過ごしやすい戸建て住宅について解説しました。
いずれもデザインや予算の問題が絡んでくるため、必ずしもすべてを導入できるケースばかりではありませんが、1つでも多く取り入れていただくことで高齢者の満足度は確実に底上げされます。
人生100年時代といわれるいま、65歳以降を高齢者とするなら「老後生活」は35年続くことになります。その35年を少しでも快適で安全にするためにも、ぜひ本記事を参考に戸建て住宅の新築・購入を検討してみてください。