家を建てるなら平地と傾斜地どっち?メリットとデメリットを解説
家を建てる候補の地域に平地と傾斜地がある場合、費用や景観、被災リスクなどの観点からどちらの土地を選べば良いのか迷うものです。
ここでは「家を建てるなら平地と傾斜地どちらが良いのか」という観点から、平地と傾斜地の違いを解説していきます。最終的には自己判断になりますが、傾斜地のメリットとデメリットを理解したうえで、最適な選択ができるようお手伝いいたします。
傾斜地とは?
傾斜地とは、斜めに傾いている土地のことです。一見すると家を建てる土地として不向きに思えますが、眺望や日当たりが良い場所も多いことから、平地ではなくあえて傾斜地を選ぶケースもあるのです。
似た意味を持つ「がけ地」という言葉は、とくに傾きの強い傾斜地に用いられることが多く、一般的には文字通り急角度のがけ(崖)の近くを指します。このほか、切土や盛土によって形成された人工的な斜面を「法面(のりめん)」や「法地(のりち)」と呼ぶなど、傾斜地にはいくつかの呼び名があります。
傾斜地に家を建てるメリット
傾斜地に家を建てるメリットは、大きく4つ挙げられます。
- 平地に比べて土地価格が安い
- 眺望が良く景色を楽しめる
- 外からの視線が気にならない
- 傾斜を利用した家づくりができる
それぞれ、平地に家を建てる場合と比べて、どのような理由によりメリットとして捉えられるのかご紹介します。
平地に比べて土地価格が安い
傾斜地の土地価格は、一般的に平地よりも安い傾向にあります。
理由としては、傾斜地は崖部分の崩壊を防ぐための擁壁(壁状の構造物)を設置したり、土地を平坦にしたりするための工事に費用がかかるからです。また、北向きにひな壇状になっている傾斜地は、日が昇る南側の土地が太陽光を遮るため日当たりが悪く不人気です。
以上の理由から、平地よりも価格面を好条件にしなければ売れづらいため、傾斜地は平地よりも安価な傾向にあります。
眺望が良く景色を楽しめる
傾斜地は周囲に遮るものがないケースも多く、高さによっては景色を楽しめる場所も珍しくありません。そのため、窓から外を覗いた際の景観を楽しみたい場合、傾斜地は平地に比べて有力な候補となります。
平地よりも一段階上の視点から景色を見渡せるため、四季の移り変わりを感じやすく、地域によっては花火大会や雪景色を特等席で楽しむことが可能です。
外からの視線が気にならない
平地の場合、周囲の建物は同じ高さになりやすいため、カーテンを開けば窓の外から部屋のなかが見えてしまいます。そのため人目の多い地域では、日中でもカーテンやブラインドを閉めるケースは珍しくありません。
日当たりを考慮して解放感のある窓を取り付けても、ほとんど活かされない可能性があるのです。一方で傾斜地に家を建てた場合は、周囲に同じような高さの建物が並んでいないため、平地に建てた家に比べて外からの視線は少なくなります。
カーテンやブラインドを開くことに抵抗がなくなるため、日中には気兼ねなく部屋へ太陽光を取り込めますし、夕方以降は夕景や夜景を楽しむことが可能です。
傾斜を利用した家づくりができる
傾斜地に家を建てる場合、基礎を深く作るため地下スペースを設けやすい傾向にあります。そのため、平地にあえて地下スペースを設けるケースに比べて、より安価な追加費用で地下倉庫や地下車庫を用意できるのです。
地下スペースは遮音性が高く、温度の変化が抑えられやすいため趣味的用途にも適しており、通常の部屋とは違った遊び心のある要素として活用できます。
傾斜地に家を建てるときの注意点
傾斜地は平地と勝手が違う部分も多く、家を建てるときにはいくつかの注意点があります。
ここでは、傾斜地に家を建てるときにどういった観点で注意すれば良いのか、理由と対応策を解説していきます。
地盤調査や地盤改良が必要
地盤が軟弱な場合は家を建てることができず、地盤改良が必要となります。傾斜地は平地よりも安い傾向にありますが、地盤改良に多額の費用がかかれば金銭面のメリットは相殺されてしまうため、土地の契約前に地盤調査を行うなどの対応をおすすめします。
場所によっては日当たりが悪い
傾斜地は周囲に同じ高さの建物が並びづらいため、基本的には日当たりが良い傾向にありますが、南側に自宅より背の高い建物がある場合は日当たりが悪くなります。
たとえば以下の画像のような位置関係で家が建っており、右上の家が南側、左下の家が北側に建っている場合には、左下の家は右上の家に日光を長時間遮られる可能性があるのです。
日当たりが悪い場合、日中でも室内照明をつけなければならなかったり、洗濯物を干しても乾きづらかったりなどの不都合が生じます。そのため、傾斜地に家を建てることを検討する際には、日当たりの程度が許容範囲内なのか否かを確認するように心がけてください。
地形によっては雨水が流れ込む
傾斜地の下側に家を建てる場合、梅雨や台風などで雨量が増える時期に、雨水が自宅周辺に流れ込む懸念があります。
雨水の逃げ場がなければ、家は常に水気にさらされることになり腐食や痛みを招きかねません。また雨量によっては家財や人命に深刻な被害をもたらす可能性があります。
そのため、傾斜地の下側に家を建てることを検討する際は、専門業者に相談したうえで対応策を講じることをおすすめします。
劣化した擁壁は破損の可能性がある
斜面が崩れることを防止するために作られた、コンクリートや石により形成される壁を擁壁(ようへき)と呼びます。劣化が進んでいる擁壁は災害時に崩壊する場合があり、擁壁の全長に関係なく家財や人命などに被害を及ぼす懸念があるのです。
そのため傾斜地に家を建てる際、すでに斜面に擁壁が設けられている場合は、その擁壁から劣化した様子が見られないか確認してみてください。劣化状況の判断は専門家を仰ぐのが確実ではありますが、土地選びの段階から毎回専門家に依頼していては、必要以上に時間や費用がかかります。
擁壁の劣化状況を目視で判断する際には、国土交通省が公開している「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」や「既存造成宅地擁壁の老朽化診断 目視点検調査要領」といった資料が参考になるため、これらを活用して実状と照らし合わせることをおすすめします。
大きく開いたクラック(ひび割れ)やズレ、積み石の落下や前方へのふくらみなどが見られる擁壁は、代表的な危険信号です。
急傾斜地崩壊危険区域の指定を要確認
家を建てるために傾斜地を探している場合、購入を検討している土地が急傾斜地崩壊危険区域ではないか確認しましょう。
急傾斜地崩壊危険区域とは、がけ崩れによる被害を防止・軽減するための対応を必要とする土地のことです。急傾斜地崩壊危険区域に指定される土地には、排水施設や擁壁を設置しなければならず、家を建てる場合には都道府県知事の許可が求められます。
一定のリスクがあることから、急傾斜地崩壊危険区域は土地価格が安く、資産価値も低く見積もられる傾向にあるのです。ただし「土地にかかる費用を抑えて建物にコストをかけられる」ともいえるため、見方によっては多少のメリットがあるとも捉えられます。
造成時期が「宅地造成等規制法の改正後」かどうか要確認
一見すると危険には思えない緩やかな角度の傾斜地であっても、地面がすべって移動する「地すべり」を起こしやすい場所があります。
地すべりの主な原因は、地下水などの影響による地層の移動です。何年にもわたり少しずつ移動する地すべりや、災害により突発的に数メートル移動する地すべりがあり、地すべりにより河川がせき止められて土石流に発展する場合もあります。
見出しにある「宅地造成等規制法」は、もともと1962年に制定された土砂災害の防止を目的とする規則ですが、その後にも地すべりによる崩落が発生したことから2006年に改正されました。
そのため、2006年以前(法改正前)の基準に則り造成が実施された土地は、現行の基準にもとづいた措置が行われていない可能性があり、地すべり発生の観点から不安が残ります。2006年以前に造成された傾斜地に関しては、法改正後に何らかの対応が行われたのか土地の管理者に確認することを推奨します。
まとめ
傾斜地は家を建てる用途に向かないと思われがちですが、費用や景観、地下スペースの作りやすさといった観点から平地に家を建てるケースにはない魅力があります。
ただし、地震や大雨などの災害時には、平地よりも被害が大きくなる懸念を抱える場合があるため、土地選定時には「傾斜地を住む場所とした際のリスク」を念頭において検討することをおすすめします。